序 文
我が甲斐の地、四面山を以て繞らし、到る處山水谿谷美に富む。富士、八ヶ岳の靈峯は云ふに及ばず、富士五湖、昇仙峽、南アルプス諸山、瑞牆山、大菩薩峠、三ッ峠等、景勝地擧げて數ふべからず。然りと雖も、其の紹介足らずして、富士及昇仙峽の外、世人の之を知るもの尠きを遺憾とす。
本縣師範學校教諭矢崎好幸氏茲に感あり、其の弟子と共に普く縣下の各地を跋渉し、其の天稟の畫才を傾注して、之を版畫に收め、興味ある説明を加へて剞※[#「 厥 に似た字+りっとう」、《きけつ=小刀》]に付せんとす。其の畫數實に百餘、氏の苦心勞効眞に多大なりと謂ふべし。
我縣には夙に觀光協會の設置あり、甲府商工會議所亦曩に觀光部を設けて、縣下の景勝地を江湖に紹介し、之が開發に努力するの際、矢崎氏の此著は、確に世人の注意を喚起し、且つ一般の歡迎を受くべきを信じ、喜んで蕪辭を卷首に序す。
昭和八年七月 |