28 屋臺店
屋臺店の爺さんが 今日も四つ角で くしざしのフライを賣つてゐる。 子供等は一錢持つと すぐこゝへ飛んで行く くしざしのフライは 子供等に母の懷しみを與へる。 子供等はくしざしのフライを食ふ時 さつき喧嘩をしたことも忘れ 駄太をこねて今朝母を泣かしたことも忘れる。 屋臺店の爺さんは 今日も子供相手の噺話に 一人ぼつちの自分を忘れようとしてゐる。
(海野 豐)