それは平成13年の夏の夕方、いつものようにごみ(有価物)を出しに行くと、古い本が隅に重ねられていました。地域資料デジタル化研究会に入会したばかりの私は、あら勿体ないと手に取りました。これが「郷土風景 ―創作版畫と其の作り方―」と私の出会いです。
 この「郷土風景 ―創作版畫と其の作り方―」は昭和8年9月20日に出版されました。山梨師範学校の教師であった矢崎好幸先生と生徒の方々が郷土山梨の風景を版画にし、その版画に寄せて説明文を書いておられます。この本を読むことによって、当時の山梨の政治、産業、風物、生活、教育、宗教、史跡名勝、景勝地について一通りの知識を得ることが出来るという素晴らしい歴史書です。私達はあまりに身近なため、郷土を知らずに通り過ぎてしまってはいないでしょうか。郷土について改めて知りたいと思ったとき、そして、当時を生きた方々の心に触れさせてもらいたいと思ったとき、この本はぴったりです。巻末では矢崎先生が創作版画について解説されています。
 この本が作られた時代を振り返りますと、アメリカを起点とする世界大恐慌に続き満州事変に象徴される軍部の台頭と、日本は苦しい時代に入っていました。山梨における最高学府である師範学校にもその波は押し寄せていたことでしょう。その中にあっても教育を天職と考え、ややもすれば軟弱と軽んじられる芸術分野に挑戦され、このような立派な業績を残されたことは特筆に値すると思います。
 矢崎先生は昭和25年2月18日に逝去されましたが、先生の御家族の皆様にはインターネット上で紹介することのご快諾を頂いております。また、当時の生徒の皆様についても、山梨師範学校の同窓会名簿等を調べるなどして、ご本人またはご家族の方々に掲載のご了解を得ました。しかし、まだ内田重信様、熊谷茂雄(もしくは英雄)様につきましては連絡がとれません。どうぞ、この本の関係者の皆様、お2人について御存知の皆様、何か情報がございましたら地域資料デジタル化研究会まで御連絡下さい。
 本書をデジタル化する際、今のJIS漢字では表せない文字がありました。そのような文字は※で示し、文字の構成を書きました。また、いくつか印刷ミスとも思われるところに気が付きました。そのような箇所は[#  ]の形で示してあります。外来語は原本通りにしましたが、わかりにくいところには注を入れました。包摂文字については「JIS漢字字典」(日本規格協会)に従いました。尚、言葉の繰り返しの印は「/\」で表してあります。
 最後になりましたが、この本を執筆されインターネットで紹介することをご承諾下さった皆様に心より感謝申し上げます。また調査中ご親切にして下さった多くの皆様、作業中お力添え下さった皆様に御礼を申し上げます。
 矢崎先生は「作者の言葉 」で「この小さな營みが何等かの刺激となり、共々に伸び行く資料ともなれば幸である」と書かれています。約70年の時を越えて、今またこの書が「伸び行く資料」となることを願って止みません。

                                    
   平成14年9月
地域資料デジタル化研究会
URL: http://www.mt8.ne.jp/digi-ken/
E-mail:digi-ken@mt8.ne.jp
採録者:中澤京子